シリーズ日ユ同祖論・1(2019年7月号)


 

WEBマガジン『神秘之國、日本』

古代イスラエル人と大和民族

~日ユ同祖論の徹底検証!~

 



 

 

古代イスラエル人と大和民族
~日ユ同祖論の徹底検証!~

 

 

プロローグ


 大和民族とユダヤ人は、先祖を同じくするのである、というのが、いわゆる日ユ同祖論である。
 一見奇抜であり、歴史学としてはまったく論外として無視されながらも、一部の好事家、歴史マニアからは、一定の支持を受け、いまだに語り継がれる論説である。
 しかし、日ユ同祖論と聞いただけで拒否反応を起こす人もいる。「日ユ同祖論こそは無知の蔓延であり、一刻も早くこの迷夢から醒めねばならない」と言ったのはオリエント研究家、杉田六一であった。
 私も以前、ある神社関係者の集まりで、講座を依頼され、日ユ同祖論に触れたことがあったが、やはり、「それについては嫌悪する神社関係者がいます」と釘をさされたこともある。
 日本独自の神々が、海外の神であり、肉の犠牲を伴う一神教と同じにされてはと言う嫌悪感があるのは当然だろう。

 と学会(世界のトンデモ本やトンデモ説を品評することを目的とした任意団体と自称している)が1995年に出版した『トンデモ本の世界』には、トンデモ用語の基礎知識として「古史古伝」「シオンのプロトコール」などと並んで「日ユ同祖論」も取り上げられている。つまり、「日ユ同祖論」とは歴史ではなく、トンデモであり、オカルトなのである、という位置づけにされたのである。
 これには、背景があったと思われる。

 日ユ同祖論なるものは、明治の時代からあった。この論説は、日本が近代化し、一等国になろうとする精神的基盤として利用されたという事実がある。つまりは、『旧約聖書』に出てくる神に選ばれたヘブライ人たちが、日本人の祖先となったというこの論説が、「聖書」を信じる欧米人たちに対して、精神的優位に立ち得るとされたのである。また、そのユダヤの歴史の古さと、昭和15年(1940)に迎えた紀元2600年記念式典をして、古代から続く皇統を謳い、実際に大日本帝国が世界に進出するにあたっての正当性にも利用できるのではないか。そう思った政府関係者や軍人が実際いたのである。
 戦前の日本人は、全国民は天皇家につながる大家族であり、全世界の人たちもまた、一家族のような国際秩序の原本原則にあることを理念とした。これを、八紘一宇といい、大東亜共栄圏を作り出すスローガンとなったが、それは日本人だけに通用した概念であった。だが、日ユ同祖論がこの概念を客観的に証明してくれるものであると、考えたのである。

  しかし、大東亜戦争の敗戦により、八紘一宇を口にするものはいなくなり、日ユ同祖論なるものも、同時に忘れ去られたのだ。
 ところが、日本が経済的発展を遂げ、1980年代にはバブル景気のもと、世界第2位の経済大国となった。そのバブルが弾けた頃、日ユ同祖論なるものが再び脚光を浴びたのである。
 それは、ユダヤというものへの意識であったと思われる。
 もともとそういった意識は、バブル経済の始まった1986年に中東問題研究家の宇野正美が著述した2冊の本、『ユダヤが解ると世界が見えてくる』『ユダヤが解ると日本が見えてくる』からもたらされていたようだ。

 ここに、国際ユダヤ資本であるロックフェラーやロスチャイルド財閥の世界的影響や、世界中のほとんどの人たちが「聖書」を読み、「聖書」が世界の多くの人たちの考え方や哲学の基盤であり、生活のベースになっていると指摘されたのである。また、宇野は『シオン賢者のプロトコール』から、その出典、引用をすることによって、陰謀論に説得力をもたらせた。
 『シオン賢者のプロトコール』については、後に言及するが、これも衝撃の内容を持った冊子であった。
 今と違って、ネットの無い時代。その真偽を確かめるのは困難であった。そんな時に、宇野の書籍によって、テレビやラジオ、新聞や雑誌といったマスコミがタブーとする裏の社会、国際的陰謀があるかもしれないことを、日本のサラリーマンたちが知ることとなったわけである。
 そして、やがて来る日本の経済危機とバブルの崩壊も宇野は指摘していたのだ。

 やがて、経済学者の誰もが予想しなかったバブル経済の破綻が現実のものとなった。
 宇野正美の予想ははからずも当たったのである。
 バブル崩壊の原因は、1989年に導入された消費税に加え、バブル経済の制御を目的とする日本国政府と日本銀行の金融引き締め策の失敗が招いた結果であるとされるが、一方で世界の経済を牛耳っているのはユダヤ金融資本であり、これは日本に向けて意図的に仕掛けられた罠であったとする宇野説も大きく脚光をあびたのである。
 この時、読者たちは、宇野がしばし示唆した、ユダヤとは何か、という問題を考察することになり、同時に、日ユ同祖論なるモノが再び注目されるようになったのである。
 日本人は基本的に「聖書」を読まないし、ユダヤ人のことも知らなかった。だからその真偽を見極めることは難しかっただろうし、そこまで真剣にその実体を知ろうとする者もいなかったのだ。ただ、がむしゃらに働きバチのように働き、経済主義、合理主義を信じていた日本人に、別の価値観があるのでは? 我々の知らないタブー視される大きな闇の組織があるのではないか?
そういう疑問をもたらせたのである。
 それを解くキーワードが、ユダヤであったのだ。

 そこに、日ユ同祖論なる物が浮上した。
 ユダヤは日本人にとってそう遠くはない民族だ。なぜなら彼らと我々日本人は先祖を同じにするからだ。それは決してありえないことではない。過去から日本とユダヤの両方から指摘されてきた事実である。日ユ同祖論にこそ、ユダヤ人の根源を知るヒントがあるのではないか、という論説である。
 そうして同時に、もう一つの歴史のタブーでもあった、「古史古伝」が取り上げられ、青森県のキリストの墓や能登半島のモーゼの墓の存在を知り、明治、大正、昭和の初期に日ユ同祖論を提唱し、証明しようとした人たちがいたことも知ることになる。そして宇野自身もユダヤ資本の陰謀のみならず、『古代ユダヤは日本に封印された』『古代ユダヤは日本で復活する』など、日ユ同祖論を基軸とした論説を展開するようになった。

 同時に脚光を浴びたのが、鹿島昇、佐治芳彦、吾郷清彦らが提示した「古史古伝」の世界であった。

 「古史古伝』とは、正史である『古事記』『日本書紀』には書かれないどころか、その世界観とは異なる超古代の日本史が書かれていて、それらは漢字の伝わる前に神代文字で記されているというものである。『竹内文書』『富士宮下文書』『上記〈うえつふみ)』『秀真伝(ほつまつたえ)』といった文献がそれである。この中にもユダヤとの歴史が示唆されるものもあり、日ユ同祖論の提唱者たちは、これらの文献をも引き合いにし、霊感と物証によって、タブーであった超古代の摩訶不思議な真実性、正統性を構築しようとしたのである。
 日ユ同祖論の提唱者、擁護者は、佐伯好郎、小谷部全一郎、木村鷹太郎、酒井勝軍、川守田英二、鳥谷幡山、三浦一郎、山根キク、中田重治、藤沢親雄、山本英輔、そしてN・マックレオド……。そして、戦後になっても、ユダヤ人の言語学者ヨセフ・アイデルバーグ、ユダヤ教のラビであるサミュエル・グリーンバーグ、同じく日本でラビをしていたマーヴィン・トケイヤーらが、日ユ同祖論を肯定しているか、関心を示している……。

 彼らの著書や証言に触れた日本の読者たちは、世の中には陰謀とタブーが存在することを認識し、その根源にユダヤ、というものがあることを認識したのだ。これがフリーメーソンという秘密結社と結びつき、ユダヤ=フリーメーソンの陰謀説となって様々に書籍化され、馬野周二、赤間剛、太田龍などが指摘するユダヤの陰謀論も読まれることとなったのである。
 ところが面白いことに、陰謀論を信じる日本人は、反ユダヤになるのかというと、そうではなく、そのユダヤ人たちと日本人は、かつては同じ祖先で繋がるという、日ユ同祖論をも信じようとしたのである。

 ユダヤの陰謀論と日ユ同祖論の共存。
 実は、これも今に始まったことではなく、明治、大正、昭和に日ユ同祖論を提唱した人たちにも言えることであった。彼らの大半もまた、反ユダヤでありながら、日ユ同祖論を説いたのである。
 これは一体、どういうことなのだろうか?

  私も、1991年、四天王寺からもたらされた、聖徳太子の「未来記」について調査、研究をすることになった時、日ユ同祖論があることを知った。
 「怪しい」と思いながらも、そこに展開するロジックと歴史の物語としての面白さには魅了されたものである。歴史の類似性、宗教風俗の共通性、ヘブライ語と日本語の関係……。

 しかし実のところ、どの本を読んでも、結局は佐伯好郎の「太秦を論ず」や川守田やグリーンバーグ等の提唱するヘブライ語と日本語の比較であったり、ラビ・トケイヤーの指摘であったりと、引用、孫引きばかりで、新しい発見が無い、という事実に行き当たるのが、日ユ同祖論でもある。

 日ユ同祖論を肯定し、擁護する人たちは、自分の頭で考えないで、今まで提唱された説をなぞり、孫引きしているだけだ。
 これは、と学会の主催者であり、作家の山本弘が指摘したものだったが、私も同様の考えにいる。
 と学会が、トンデモとした「日ユ同祖論」「シオン賢者のプロトコール」『古史古伝」は、同じ穴の狢であったわけである。

 しかしながら、今でも日ユ同祖論を信じる人は日本にまだまだいるようである。

 今は現代科学の時代、そんなものはDNA鑑定すれば簡単に分かることではないか。そういう意見もある。至極まっとうな意見だが、これもそう簡単なことではない。
  また、DNA鑑定の結果、日本人とユダヤ人はまったく関係が無いことが分かった、という専門家もいれば、同じ結果を持って、これで同祖である証明が出来た、という専門家もいる。
 日ユ同祖論に関しては、肯定派はなんでも肯定するための材料とし、否定派はその実証性も客観性も無いとはねつける。だが否定派も明確な論理で否定しているわけでもない。

 日ユ同祖論は、肯定でもなく、否定でもない客観的な視点で、再考察する必要がある。

 私はそう思うのである。

 この『イスラエル人と大和民族~日ユ同祖論の徹底検証』では、一度、日ユ同祖論なるものが誰によってどう提唱されたのか、日本人にとってそれは何だったのかを考えながら、実際の歴史上でそんなことがありえたのかを、私なりに考察し、検証しようとするものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※色が違う箇所がありますが、意味意図はありません。

 


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